近年、人間ドックや健康診断を受ける方は増えています。皆さんも「健康には気をつけたい」と思い、病院を訪れることがあるのではないでしょうか。しかし、その一方で喫煙や飲酒、不規則な生活習慣を続けている方も少なくありません。実際に診察していても、基本的なセルフケアである 「睡眠」「食事」「運動」 の3つをきちんと整えられている方は驚くほど少ないのが現状です。
この記事では、慶應義塾大学病院総合診療科の先生の臨床経験をもとに、健康を守る3大要素について「なぜ大切なのか」「どう取り組めばよいのか」をわかりやすく解説します。※個人の見解であり、所属や学会の公式見解ではありません。
健康になりたいのにやめられない矛盾

「健康のために何かした方がいいのでは…」と不安になり受診される方は多いものです。ですが、人間ドックで検査を希望される方ほど、「喫煙習慣がある」「お酒を毎日のように飲む」「肥満気味である」といった不摂生な生活を続けているケースも目立ちます。
つまり、「病気にはなりたくない自分」と「いつもの生活は変えたくない自分」という相反する気持ちが同居しているのです。この状態を心理学的に アンビバレント(両価性) といいます。
検査で病気が見つかることはあっても、日常の習慣を変えなければ根本的な健康は得られません。人間ドックを受診する前に、まずは 「自分にできる生活習慣の改善」 を考えてみましょう。
喫煙は寿命を縮める最大のリスク

アメリカの大規模研究では、「早死にを招く最大の要因」が明らかにされています。
- 第1位:喫煙
- 第2位:運動不足・肥満
特に喫煙は、あらゆる生活習慣の中でも群を抜いて健康を損なうリスクが高いとされています。もし、喫煙習慣がある方は、これを機に禁煙を真剣に考えてみてください。
禁煙成功のカギ「5Aアプローチ」
禁煙外来などで用いられる手法に 5Aアプローチ があります。
- 把握(Ask):タバコを吸っているか確認する
- 助言(Advise):禁煙の必要性を伝える
- 同意(Assess):禁煙の意思を確認する
- 支援(Assist):禁煙の開始をサポートする
- 手配(Arrange):フォローアップを計画する
医師が毎回「タバコをどのくらい吸っていますか?」と尋ね、軽い言葉かけを続けるだけでも、患者さん自身の意識が変化し、最終的に禁煙へとつながるケースが少なくありません。大切なのは「寄り添い続けること」なのです。
お酒は「依存性物質」―アルコール依存症と共依存

お酒は嗜好品として楽しめますが、実は 依存性物質 です。かつて治療は「断酒」が中心でしたが、現在は少しずつ量を減らす「節酒」も行われています。
しかし、自分が依存症であることに気付いていない人も少なくありません。また、依存症の本人を支える家族が無意識のうちに問題行動を助長してしまう「共依存」も深刻です。
- 借金を肩代わりしてしまう
- 酒を代わりに買ってくる
- 相手の世話をすることで自分の存在価値を確認する
こうした行動は「イネイブラー」と呼ばれ、相手の回復を妨げてしまいます。
キリンビール公式HPの 「AUDIT(飲酒習慣スクリーニングテスト)」 や厚生労働省の啓発資料なども参考になります。「自分や家族は大丈夫」と思う前に、一度チェックしてみるのがおすすめです。
日本の女性に多い「鉄欠乏症」

厚生労働省の調査では、日本人女性の約9割が鉄不足といわれています。鉄分が不足すると、赤血球の働きが低下し、体全体に酸素が行き渡らなくなります。
主な症状
- 疲れやすい、息切れ
- めまい、集中力の低下
- 顔色の悪さや爪の変化
一見すると うつ病や自律神経失調症に似た症状 を示すため、精神科で抗うつ薬を処方されてしまうケースも少なくありません。原因が鉄不足であれば、適切な栄養補給で改善できます。血液検査(フェリチン値の測定)で確認できるため、気になる方は内科を受診しましょう。
運動不足と肥満に効く「動機付け面接」

「運動したい」「痩せたい」と思っていても、実際に行動に移せない人は多いものです。そんなときに役立つのが心理療法のひとつである 動機付け面接 です。
「昔、どんな運動をしていましたか?」といった会話を通じて本人の経験を引き出し、少しずつ「やってみようかな」という気持ちを高めていきます。
小さな工夫から始めよう
- エレベーターではなく階段を使う
- 一駅前で下車して歩く
- 通勤を自転車に切り替える
こうした生活の中でできる工夫を積み重ねることが、継続の秘訣です。
また、ランニングやウォーキングを ゲーム感覚 で楽しむのも効果的です。タイムを少しずつ更新したり、スマホアプリ「Pokémon GO」「ドラゴンクエストウォーク」などを利用したりすると、遊びながら健康習慣を身につけられます。
睡眠不足と生活習慣病の関係

睡眠の悩みを抱えている方も多く、その一因に 睡眠時無呼吸症候群(SAS) があります。
- 閉塞型:肥満で気道が狭くなる
- 中枢型:脳からの呼吸指令が途絶える
- 混合型:両方の特徴を持つ
放置すると高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中のリスクが上がるほか、交通事故や仕事のミスにもつながります。
治療にはCPAP療法やマウスピース、場合によっては外科手術もありますが、根本にはやはり 生活習慣の改善(減量・禁煙・禁酒・運動) が欠かせません。
まとめ

健康をつくる3大要素は、「運動」「食事」「睡眠」。これらを整えることが、心と体の安定を守る最も確実で持続可能な方法です。
- 喫煙は寿命を縮める最大のリスク → 「5Aアプローチ」で禁煙を
- アルコール依存症は「節酒」への切り替えを → 共依存にも注意
- 女性の不調は鉄不足が原因かも → 血液検査で確認を
- 運動不足には「動機付け面接」 → 楽しみながら継続を
- 睡眠障害は生活習慣病とも関係 → 減量・禁煙・禁酒で改善
受診や検査だけでは健康は得られません。まずは日常生活の小さな一歩から。「今日から少し変えてみよう」という気持ちが、未来の健康につながります。