発達障害という言葉を耳にすることは多くなりましたが、「二次障害」という言葉をご存じでしょうか。
これは、発達障害そのものから生じる直接的な困りごとではなく、「発達障害をもつことによる生きづらさやストレス」が原因となって後から現れる精神的・身体的な不調のことを指します。代表的なものとして、うつ病や不安障害、パニック障害、依存症などが挙げられます。
二次障害とは何か
発達障害のある人は、生まれ持った特性ゆえに社会の中で生きづらさを感じやすい傾向があります。
周囲とうまくコミュニケーションが取れない、忘れ物やミスが多い、感覚が過敏で疲れやすい──こうした日常の困難が積み重なっていくうちに、強いストレスや自己否定感が生まれ、次第にうつ状態へと進行してしまうことがあります。
このように、「発達障害が背景にあり、そこから派生して生じる別の障害」をまとめて“二次障害”と呼びます。
また逆に、うつ病や適応障害などをきっかけに発達障害の特性が明らかになるケースもあります。
たとえば、うつ病の治療をしている最中に、注意力の極端なばらつきや対人関係の苦手さが目立ち、後からADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性が判明することもあります。
このように、一次障害(発達障害)と二次障害(精神疾患)の境界は明確に分けられるものではなく、互いに影響し合いながら進行することが多いのです。

主な二次障害の症状
発達障害にともなって現れやすい二次障害は、主に以下のようなものが挙げられます。
1. うつ病・適応障害
もっとも多いのがうつ状態です。発達特性によって日常生活での失敗や誤解が重なり、疲労やストレスが限界に達すると、心身が休めない状態になります。
「頑張っているのにうまくいかない」「人と同じようにできない」といった自己否定の思いが強まると、やがて病的な疲労感や無気力、興味の喪失などのうつ症状が現れます。
初期段階では適応障害として現れることも多く、休養と環境調整が重要になります。
2. 不安障害・パニック障害
発達障害がある人は、感覚過敏や人間関係の苦手さから「人と関わる場面」そのものが大きなストレスになりやすい傾向があります。
その結果、社会不安障害(社交不安障害)やパニック障害を発症することがあります。
たとえば、人前で話すと極度に緊張して動悸や発汗が止まらない、満員電車など閉ざされた空間で強い不安が襲う──そうした恐怖体験が繰り返されるうちに、「また起きるかもしれない」という予期不安が強まり、外出自体を避けてしまうケースもあります。
3. 依存症
現実でのつまずきや孤独感を埋めようとするあまり、依存行動に走ってしまうこともあります。
ゲーム、SNS、ギャンブル、アルコール、薬物、自傷行為、過食・嘔吐など、依存の対象はさまざまです。
これらは一時的に苦しみを紛らわせる効果がありますが、結果的に生活リズムや人間関係を崩し、ますます抜け出せなくなるという悪循環に陥りやすい点が特徴です。
また、依存対象を通じて「悪い仲間」ができてしまい、居場所がその中に限定されることで、回復がさらに難しくなることもあります。
4. PTSD(心的外傷後ストレス障害)
ASDの人は、出来事や言葉を強く記憶に残しやすい傾向があります。そのため、過去のつらい体験を忘れにくく、ふとしたきっかけでフラッシュバックが起こることがあります。
さらに、危険を察知する力が弱いため、危険な状況に巻き込まれやすく、暴力や性被害などのトラウマを負ってしまうケースもあります。
こうした体験が繰り返されることでPTSDに発展し、日常生活に支障をきたすこともあります。

二次障害が起こるメカニズム
発達障害そのものが直接「うつ病」や「不安障害」を引き起こすわけではありません。
しかし、周囲から理解されずに努力を続けてしまうことで「バーンアウト(燃え尽き症候群)」に陥り、結果として二次障害を発症することが多いのです。
ADHDの人であれば、ミスを減らそうと過剰に集中して疲弊し、ASDの人であれば、対人関係の緊張に耐え続けて心身が消耗します。
このように「頑張りすぎ」が引き金となって、うつ病や適応障害へと移行していくことが多く見られます。
また、うつ病という言葉に抵抗を感じる文化的背景から、「適応障害」や「バーンアウト」という診断名が使われることもありますが、根底にあるメカニズムはほぼ同じです。

治療の進め方
発達障害の二次障害に対する治療は、「どちらを先に治すか」という単純なものではありません。
基本的には、うつ病や不安障害などの精神症状の治療と、発達障害の特性への支援を同時並行で行っていきます。
まずは休養と心理的安定を図りながら、抗うつ薬などでうつ症状を緩和する場合もあれば、ADHD治療薬(コンサータやストラテラなど)を優先して使用することもあります。
薬の開始順や重点は、その人の症状の重さや生活状況、本人の希望、主治医の判断などによって異なります。
一度に複数の薬を始めることはせず、効果や副作用を見ながら慎重に進めるのが基本です。
治療の方向性を例えるなら、交通事故で複数のケガを負ったような状態に似ています。
骨折もあれば内臓損傷もある──そのとき、どこから治療するかは「命に関わる部分」や「今すぐ対応すべき部分」から順に行うように、二次障害の治療も緊急度や介入のしやすさを考慮しながら、全体を見て進めていく必要があります。
回復のために大切なこと
二次障害の治療において最も重要なのは、「本人が悪いわけではない」と理解することです。
発達障害の特性は生まれつきの脳の働きの違いによるものであり、努力不足や性格の問題ではありません。
まずは自分を責めず、無理を重ねず、休息を取ることが回復への第一歩になります。
また、発達障害や二次障害について理解のある医師・カウンセラー・支援者とつながることも大切です。
周囲が特性を理解し、環境を整えることで、再び同じストレスを繰り返さずにすむ可能性が高まります。
まとめ
発達障害の二次障害は、単に「心が弱った結果」ではなく、日々の生きづらさや誤解、過度な努力の積み重ねによって生じるものです。
うつ病や不安障害、依存症、PTSDなど、その症状は多岐にわたりますが、いずれも早期の理解と支援によって回復することが可能です。
「頑張りすぎてしまう」「人より疲れやすい」と感じるときこそ、少し立ち止まり、自分の心身をいたわること。
それが、二次障害を防ぎ、より生きやすい日常を取り戻すための大切な一歩となるでしょう。