メンタルクリニックに通われる患者さんの中には、「自分の気持ちをうまく言葉にできない」と悩まれている方が少なくありません。
「なんだか苦しい」「もう嫌だ」など、漠然とした思いだけが心の中に渦巻き、どう表現すればいいのか分からない——。そんなとき、「感情を言葉にすることが大事」と世間ではよく言われます。
しかし実は、「感情」そのものを細かく言語化する必要はありません。
本当に大切なのは、「なぜ悩んでいるのか?」という“論理的な背景”を整理すること。
つまり、心の中のモヤモヤを解きほぐすことが、現実の問題を解決する第一歩になるのです。
本記事では、「感情や考え方の言語化」について、精神科・心理的支援の現場でも役立つ考え方をわかりやすく解説していきます。
「気持ちをうまく説明できない」「ただ苦しいとしか言えない」——そんな方にこそ読んでいただきたい内容です。
感情論と論理的思考の違い

医師は診察の際、患者さんに「感情ではなく、できるだけ論理的に話してみましょう」と伝えることがあります。
ここでいう「論理的に」とは、冷たい態度をとるという意味ではなく、「感情に飲み込まれずに、冷静に理由や状況を整理する」ということです。
では、「感情論」と「論理的思考」には、どのような違いがあるのでしょうか。
感情論とは
感情論とは、その時の気持ちだけに基づいて意見を述べることを指します。
「嫌だ」「ムカつく」「悲しい」といった感情が中心で、明確な根拠が伴わないため、話し合いが感情的なぶつかり合いになってしまうことも多いです。
たとえば、誰かの意見に反対したいとき、「なんとなくイヤ」という感情だけでは、説得力を持たせるのが難しくなります。
根拠がないまま主張を続けてしまうと、相手に理解されにくく、結果的に「わかってもらえない」とさらにストレスを感じてしまうのです。
また、感情論に偏りやすい人の中には、「自己中心的」な考えに陥ってしまうケースもあります。
自分の気持ちを最優先し、相手の立場を考えずに意見を押し通してしまうと、周囲との関係がぎくしゃくしてしまいます。
論理的思考とは
一方で、論理的思考とは、感情や直感に流されず、理由と根拠に基づいて筋道を立てて考える姿勢です。
このタイプの人は「なぜそうなるのか?」と疑問を持つ習慣があり、物事の背景や前提条件まで意識して理解しようとします。
論理的な人の会話は、「結論 → 理由 → 具体例」という順序で整理されており、聞いている側も理解しやすいのが特徴です。
また、感情に左右されにくく、冷静に物事を判断できるため、周囲からの信頼を得やすい傾向があります。
大切なのは、論理的思考は生まれつきの才能ではなく、「意識と練習」で身につけられるスキルだということです。
日常会話の中で、「なぜ?」「どうして?」を意識的に使うだけでも、思考の整理力は格段に向上します。
家族からの相談を受けたときに意識すべきこと

親子で受診される方も多くいらっしゃいます。
その際、保護者の方が子どもの気持ちを「感情的」に代弁してしまうことがありますが、実はそれよりも「何に困っているのか」を“論理的に整理”して伝えることがとても重要です。
たとえば、患者さんが「胃の中に石を詰め込まれているみたいに重たい」と表現したとします。
この言葉だけでは、原因が分かりません。
食べすぎなのか、食べなさすぎなのか、仕事のストレスなのか、経済的な問題なのか——。
つまり、「なぜ胃が重たいのか?」という具体的な背景が論理的に説明されなければ、適切な診断やサポートが難しくなるのです。
感情そのものを否定する必要はありません。
ただし、「苦しい」「つらい」などの感情表現だけで終わらず、その裏にある原因を整理して伝えることが、治療や支援の第一歩になります。
感情ではなく「原因」を言語化することの大切さ

「苦しい」「消えたい」などの感情的な言葉よりも、「どんな問題が起きているのか」「どんな状況で悩んでいるのか」を具体的に言葉にすることが大切です。
たとえば、子どもが「勉強がつらい」と感じている場合でも、「1日3時間勉強しているのに成績が上がらない」「勉強の仕方が分からない」「友達と比べて焦っている」など、状況を整理して伝えることで、初めて大人も理解し、適切にサポートできます。
「なんかイヤ」「相性が合わない」といった感覚的な表現も、
「どんな部分が合わないのか」「どんなときにそう感じるのか」といった論理的な説明に変えていくことで、問題の本質が見えやすくなります。
このように、“感情”を深掘りして“原因”を言語化する習慣がつくと、自分自身で問題を整理し、冷静に対処できるようになります。
それが、心の安定や対人関係の改善にもつながっていくのです。
診察時に自分の気持ちを伝える簡単な方法

「論理的に話すのが苦手…」という方に向けて、医師が考案した分かりやすい方法があります。
それが、「ポジティブ・ネガティブ × 活動・静止」の4象限で気持ちを整理する方法です。
- 左上(ポジティブ×活動的) … 「やる気がある」「ワクワクしている」状態
- 左下(ポジティブ×静止) … 「リラックスしている」「穏やか」な状態
- 右上(ネガティブ×活動的) … 「イライラしている」「怒りっぽい」状態
- 右下(ネガティブ×静止) … 「無気力」「不安」「うつっぽい」状態
この中で、今の自分がどこに当てはまるのかを先生に伝えるだけでも、感情を的確に共有することができます。
細かい言葉にできなくても、この4つの軸を使えば、短時間で自分の状態を説明できるようになります。
まとめ:感情を言葉にするより、“原因”を整理する力を
「感情を言葉にすること」は大切ですが、もっと大切なのは「なぜそう感じているのか」を明確にすることです。
感情論だけに頼ってしまうと、相手に伝わらず、自分でも問題の本質が分からなくなってしまいます。
一方で、論理的に思考できる人は、感情に流されずに状況を整理し、冷静に解決策を導き出すことができます。
これは、誰にでも練習によって身につけられるスキルです。
次に診察を受ける際は、「ポジティブ・ネガティブ × 活動・静止」の4象限を活用してみてください。
感情を“無理に言葉にする”必要はありません。
自分の中の思考を整理し、「どんな状況で、なぜ悩んでいるのか」を少しずつ言語化していくことが、あなたの心を軽くする第一歩になるでしょう。